語り継がれない、話もあるのだ。 :::::別離。 勇壮な白の都を背に、この国の王妃が佇んでいる。 赤い日を正面から受けて、都全体が最後の熱を手向けるようだった。 静かに佇む王妃の後ろに、音もなく二つの影が近づいてきた。 「エレスサールもかくて逝ったか」 どんなに腕の良い彫刻家でも、ここまで美しい造形を二つ作ることは不可能だろう。 王妃によく似た二人の影の、一方がそう語りかけた。 「いくのか」 「はい」 「よく成し遂げたことよ」 「はい」 「お前達は、よくぞこの国を、立ち行くに足る力を与えたね」 もう、とこしえに見えることはない。 振り向くことが出来ない。 なにを言ってやるでもない。 言葉が、失われていく。 「アルウェン」 「そなたらはゴンドールに対して、誉れ高き祖先と並べられる偉業をなしたんだ」 「だが、正直に言えば、我らにとってなんとなるものでもない」 「とこしえに変わらぬ、我らが愛しき妹と弟よ」 二度と会うことかなわなくとも。 「お兄様がた。わたくしは、しあわせでございました」 最後に、妹姫は二人の兄を振り返ってそう言った。 悲しみに満ちてはいたが、それでもなお美しい微笑みを湛えていた。 「お健やかで」 「そなたも」 そういって、広野に消えていく妹姫を飽くことなく見続けた。 燃える日に向かっていく様は、もう二度と会えないことを象徴しているように思えた。 彼女の姿が飲み込まれて、どれほどたったか。 二人は互いに馬に飛び乗った。広野へ駆け出すため。 自分達は、おそらく歴史に名を残さないだろう。 上のエルフと呼ばれずとも、歴史の大家と呼ばれた父のようには。 遠くはルシアンと同じく、人の子と寄り添うを選んだ妹のようには。 それで構わなかった。二人で果てまで見てやろうと思った。 「往くか」 「ああ。往くか」 この二人が中つ国に最後までとどまったエルフかは、書物に書かれることはない。 |
裂け谷双子が大好きなあまり。 |